社内情報システム(情シス)におけるミニマリズムとは、単なる「コスト削減」や「手抜き」ではありません。それは、「複雑性を極限まで排除し、本質的な価値(業務遂行)だけを残す」という、極めて洗練された設計思想です。
「持たない美学」「思考させない快適さ」を体現した具体例を、ご紹介します。
物理的な存在や、管理すべき対象を減らすことで、エンジニアとユーザー双方を重力から解放します。
全てをSaaSやPaaS(AWS LambdaやAzure Functionsなど)へ移行。情シスは「ハードウェア」という物理的実体を一切所有しない。管理画面上の設定値(コード)だけが存在する世界。「稼働音のない静寂なインフラ」の実現。
複雑怪奇なVPN設定、遅い回線、境界防御のための巨大なファイアウォール。
これらを廃し、ゼロトラストネットワークへ移行。インターネットこそが社内LAN。場所を問わず、ID認証のみでリソースへ直結する。
境界線という概念を捨て去ることで、ネットワーク図は驚くほどシンプルになります。
ユーザーにとってのミニマリズムは、システムの存在を感じさせない「透明性」にあります。
SharePoint等のポータル構築サービスを活用し、「経費精算はあのシステム、休暇申請はこのURL…」という分散した入り口を廃止。検索窓が一つあるだけのシンプルなポータル画面を用意し、「休暇」と打てば必要なフォームが出る。ユーザーの「探す」という行為による負荷を最小化する。
手元のPCにはデータが一切入っていない。端末が壊れても、新しい端末を渡してログインすれば、3分前と全く同じ環境が「空」から降りてくる。物理端末への執着を捨てるスタイル。
PCキッティングの廃止
Windows Autopilot、Apple Business Manager等のツールを利用し、 情シスがPCを開封し、設定し、梱包し直すという「セットアップ作業」を全廃。メーカーから届いた箱をそのまま社員に渡すだけ。電源を入れればクラウドから設定が降ってくる。物流と作業の無駄を削ぎ落とした業務フローを目指す。
「機能の総量」を一定に保つ。一つシステムを導入するには一つシステムを廃止しなければならないという、トレードオフをルール化することで、システム環境の肥大化を防ぐ。
例)新しいチャットツールを導入したいなら、古いメールシステムか掲示板を一つ完全に停止する。
現場から「こんな複雑な機能が欲しい」と言われた際、安易に開発せず、「それはExcelで運用した方が早いし変更も容易です」と回答し、システム化しない選択をする。
プログラムコードは書いた瞬間から「負債」になる。あえてシステムを作らないことで、将来のメンテナンスコストをゼロにする判断。
社内情報システムをミニマライズすることにより、システム構成は整理され、ユーザーが理解可能となり、ユーザーはツールに振り回されずに本来の仕事に集中できるようになります。
これは、「ITという道具を意識することなく、人間が創造性を発揮する」ためのデザインと言えます。